映画『メメント』を考察・解説①

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映画『メメント』は2000年に公開されたアメリカ映画。
『インセプション』などで有名なクリストファー・ノーラン監督による作品です。

監督の弟であるジョナサン・ノーランが書いた短編『メメント・モリ』が元になっています。

映画の冒頭で物語のクライマックスが描かれるという、非常に変わった構成の映画であり、一度見ただけでは物語がすぐに理解できないくらいに難解です。

ちなみに私は最初に見た時は、最後までテディが本当のジョン・Gだと信じて疑わず、レナードよくやったと思っていました。

しかしネットで他の方の考察を見て、「本当の犯人は一年前に復讐完了している」というテディの話が事実だと知って衝撃を受けました。

それくらいレナードに感情移入してしまって、「テディの言うことは信じるな」という視点で映画を見てしまっていたのです。

このように、誰の視点で見るかでこの映画の見方はがらっと変わってしまいます。

今回はこの『メメント』について、私なりに解釈・考察していきたいと思います。

レナードは本当は前向性健忘ではない

 

この映画はカラーとモノクロの映像が交互に映し出されています。

カラーの映像・・・逆再生

モノクロの映像・・・通常再生(時系列通り)

とする見方が一般的です。

このような構成にすることによって、主人公レナードの行動の矛盾をわかりづらくしています。

レナードは本当は前向性健忘ではないということです。

明らかにレナードは10分前以上の行動で覚えていることがあります。

しかしレナードは、自分は前向性健忘であると思い込んでいる、と言った方が正しいでしょう。

 

テディという人物

 

テディというこの物語においてとても重要な役割を持つ人物は、信じていいのか良くないのか、いまいちわからないところがあります。

 

電話の相手はテディ

『メメント』のDVD版には、特典として通常再生バージョンを見ることができます。

私はこれを見て、モノクロの映像って一部レナードの妄想っぽいな、と思いましたし、電話の相手も本当はいないんじゃないか?と思いました。

架空の相手に向かって語りかけているとしたら、電話相手との対応があまりにスムーズすぎるのも説明がつくなーと思っていたんですが、電話の相手はテディだとすると色々と納得がいきます。

カラーのシーンで、ジミーを殺したあとにレナードが刺青屋に行き、そこへテディがやってきてレナードに早くここから逃げろというシーンがあります。

 

悪いデカだ 君をモーテルに入れてーー電話をかけ続け

ドアの下に封筒まで 本人に聞いた 君をからかってる

電話嫌いの君に電話をかけーー出ないとドアから封筒を入れて応えさせ

ヤクの売人ジョン・Gの話を吹き込んでいる

ジミー ヤクの売人だ そのデカは取引を調べてる

それに君は巻き込まれた おれは情報屋だ 

あのデカはよその町から来てる これがバレたら殺される

 

このテディの発言が、なかなかやっかいです。

しかしここでわかるのは、やはりモノクロシーンの電話の相手はテディだということです。

 

テディはレナードを守ろうとしている

 

テディは、レナードにいくつかの事実を伏せています。

・悪いデカ=自分であること

・レナードが本当はジミーを殺したこと

テディが自分を守るためにこれらのことを隠しているように見えますが、本当はレナードを守るために隠しているのでしょう。

この場面で大事なのは、人殺しをしたレナードに、一刻も早く着替えて逃げてもらうことです。

テディはそのあとも散々、レナードに車を変えることを勧めます。

それはどれも、レナードが殺人事件を起こしたことを周囲に気付かれないようにするためです。

自分が前向性健忘だと思い込んでいるレナードに、本当のこと(自分が人を殺したこと)を伝えても混乱を招くだけなので、必要最低限のことを、嘘を織り交ぜて伝えることで、何とかレナードにここから逃げてもらうようにしたかったテディの苦肉の策というふうに見えます。

ちなみにテディはジミーに20万ドルを持ってこさせますが、これはテディのセリフにあるように、「ついでにちょっとばかし稼ごうと思った」という言葉そのままなのだと思います。

目的はレナードに復讐を与えることだったので、20万ドルにはその後執着していない様子がうかがえます。

 

レナードに感情移入しすぎた結果

テディはレナードに不利になるような嘘は言っていません。

レナードの生きる目的が復讐だというから、レナードに生きていてほしいテディは、彼に何度も復讐の相手を与えました。

本当の真犯人ジョン・Gへの復讐が成功した時の、レナードの喜んだ表情をまた見たいと思った、というテディの言葉を聞くと、何ともやるせない気持ちになります。

テディの手助けは決して倫理的に正しいことではありません。

たとえ麻薬の売人でも、ジミーはレナードとはなんの関係もありません。

しかし事件が起きてから精神を病んだレナードを、あわれに思ったところからきているテディの行動には、こちらも感情移入してしまいます。

レナードのために尽くしていたテディは、レナード本人にジョン・Gだと記憶され殺されてしまうという、救いのない結末だということができます。

 

 

モノクロのシーンの前に起きたこと

 

モノクロ映像のレナードは、テディとの電話でのやり取りで、麻薬の売人ジミーをジョン・Gだと「推理」していきます。

この「推理」が、のちにテディが言うようにレナードによる「探偵ごっこ」です。

また、気になるのはこのモノクロの映像はレナードが糖尿病の妻を殺してしまってから、何があって、どのくらい経ったあとなのか?ということです。

レナードによるサミーの回想シーンのなかで、精神病院に入院するサミーの映像が一瞬レナードに変わります。

サミーは本当は、保険金詐欺師です。

レナードが自分を正常に見せるために、サミーという人物に自分の人生の都合の悪い部分を押し付けたのです。

 

都合の悪い部分とは、「妻が強盗犯にレイプされたあと、レナードは精神を病み、記憶が保てなくなり、妻にインスリン注射を打ちすぎて、殺してしまった。彼は妻を自分が殺したことに気付くことのないまま、精神病院に入院した」ことです。

 

実際、レナードの妻がレイプされたあとから、このモノクロ映像に至るまでに何があったかは、映画のなかでは正確にはわかりません。

 

テディの言葉から推測するなら、

妻がレイプされる→記憶を保てなくなったレナードが妻をインスリン注射で殺してしまう→精神病患者として精神病院に入院する→一定期間のあとに退院する→テディの探し出した本物のジョン・Gを殺し、復讐完了→復讐したことを忘れ、また新たなジョン・Gを探し始める

という流れではないかと思います。

 

 

まとめ・後編へ

 

今回は、まず物語を理解する上で重要になるテディという人物像と、モノクロシーンに至る時系列を整理しました。

後編では、「I’VE DONE IT」シーン周辺のレナードについての考察や、DVD版特典のクリストファー監督のインタビューを見て、監督がこの映画をどのような思いから制作したのかなどを考察します。

 

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